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ポール・デルヴォーの絵の中の物語

ミシェル・ビュトール『ポール・デルヴォーの絵の中の旅』が朝日出版から刊行されました(内山憲一訳、本体1300円)。ビュトールの連作『夢の物質』シリーズの一篇「ヴィーナスの夢」を訳したものです。デルヴォーの複数の絵から発想し、その絵の中に登場する『地底旅行』のリーデンブロック教授を「主人公」のひとりとして、『地底旅行』からの引用を多数交えながら、ヴェルヌ作品のパロディとして夢が構築されるという作品です。この作品はすでに同じ出版社から既訳があり、この『文学と夜』は造本としても大変美しい大判の本ですが、雑誌初出ヴァージョンの翻訳だったのに対し、今回の新訳は単行本『夢の物質』に入った増補版の方の翻訳ですので、『文学と夜』をお持ちの方でも資料として入手されておいて損はないでしょう。もちろん、ヴェルヌ・ファンとしても、ヴェルヌを素材にした作品はそれほどありませんから、ぜひお読みいただきたいと思います。まだきちんと目を通していないので訳文についてはなにもいえませんが、一点残念だったのは、「ザカリウス」が「ゼカリア」になっていること。なにか意図があったのであれば訳注をつけるべきですし、単に訳者がヴェルヌに詳しくなかったのだとしても既訳にはきちんと注もついていますから、残念です(ちなみに、内山氏の訳した単行本ヴァージョンでビュトールはZachariusではなく、Zacharieと表記しており、雑誌ヴァージョンではどうなっていたか不明)。

トーベ・ヤンソン

ごく小さいころコミックやアニメを見ていたせいで、いまだにムーミンが結構好きだ。

ヤンソンの原作は(と言っても、弟ラルフに引き継いだコミックと並行しているから、コミックの原作というわけでもないそうなのだけれど)、もう少し大きくなってから読んだ。

今、講談社文庫で新装版が出ているのだが、シリーズ第一作『小さなトロールと大きな洪水』が今月出て、読んだことがなかったので本屋でちょっと立ち読みした。

原書は1945年に出てすぐ絶版になったものを、1991年にヤンソンの序文つきで復刊したというもので、1999年に青い鳥文庫に訳されたものの文庫化だという。そんな経緯も初めて知った。

問題はその序文である(冨原真弓訳)。

≪頭をひねったあげく、本のタイトルは、「パパをさがすムーミントロール」――「グラント船長をさがす子供たち」にならって――にしたかったのですが≫

     なんだって ! ? ! ?

≪この物語は、わたしが読んで好きだった、子供の本の影響をうけています。たとえばジュール・ヴェルヌやコッローディ(青い髪の少女)などが、≫・・・

なんと、ヤンソンがヴェルヌ好きだったとは・・・

本屋で呆然と立ちつくし、混乱した頭の中では月から飛行おにが飛んできたり、氷の世界でモランがほえたり、雷電を受けたニョロニョロが光りながらうごめいたりしたのであった。

知らなかったなあ。・・・

コッローディはご存じ『ピノキオ』の作者。でも『青い髪の少女』というのは何だろうか。

文庫は購入し、物語は短かったが面白かった。

プレイヤード版ヴェルヌ?

ガリマールのプレイヤード版公式ページにある読者からの質問コーナーで、ヴェルヌはプレイヤード版に入らないのか、という問いに対して、「準備中」という簡潔な回答が。これまでヴェルヌは拒否されてきた感じなので、いまだに半信半疑。編者の顔ぶれなどがわかれば多少信憑性も出るんですが……。今のところネット上のヴェルヌ・ファンの世界でもほとんど話題になっていないようです。

http://www.la-pleiade.fr/La-vie-de-la-Pleiade/Les-questions-des-lecteurs#0114

未来小説?

またまた細かい話を……。雑誌『水声通信』が休刊ということで、はなはだ残念に思いつつ、改めてヴェルヌ特集号をちょっと見直していて、「フリッツ・フラック」の翻訳の、最後まで氷解しなかった疑問箇所に目が留まり、あれ、これって……と思ったわけです。

「その時代にはまだ瀉血が行われていた。そして、現在と同様、医者たちは瀉血によって、まだ生きのびるはずの患者を卒中から救っていた」

ここ、ゲラでも編集者から論理的におかしいのでは、と指摘を受けて、しかし、原文通りなのでそのままにしたのですが、そう、これ『ロビュール』と同じように考えればすっきりします。つまり、「その時代」って未来じゃないでしょうか……この話、おとぎ話風なのでてっきり遠い過去としか思わないのですが、そのことによって「未来を過去形で書く」背理が拡大されているのではないか……。というか、そうとるしかちょっとほかに解釈のしようがない気がします。みなさんはどう思われますか、未来小説としての「フリッツ・フラック」!

9月11日の読書会は一般の方でも参加可能です。1941年ソ連版の原作に忠実な映画『神秘の島』など、ちょっと珍しいものもお見せできます(といっても、まあネットで入手可能なんですが)。

またまたテレビ番組から…

 毎週楽しんで観ている「奇跡体験アンビリーバブル」。
本日のメインは「200年前に南太平洋の島で起きた殺戮!!」の話だった。バウンティ号の反乱と聞いて、どこかで聞いたことがあるな~と思っていた。

 有名なところでは同タイトルの映画があるらしいことは知っていた。さらに気にかかり、記憶の奥からジュール・ヴェルヌが出てきた。確か、彼の作品リストにあったような…。ヴェルヌともう一人名前は思い出せないが、二人で書いた本。
 かつてNTT出版から出ていた「ラ・ペルーズの冒険」のようなノンフィクションなのか、それとも小説なのか詳しく分からないけれど、一七〇〇年後半の事件。ヴェルヌなら関心を持ちそうな実話に興味津々でした。

 最後まで生き残った男が罪の意識から島を楽園にしようとしたことから、イギリスから恩赦を受ける。なんとなく「神秘の島」に出てくるエアトンぽい。
もしかしたら、彼がモデルなのかと思ったぐらいでした。

 synaさん、あるいはishibashiさん、この番組をご覧になられましたか?もしもご覧になられていたら、どんな感想をお持ちになられましたのか、ぜひともお聞きしたいです。

「バウンティ号の反乱」に知的好奇心を掻き立てられて、映画も見てみたい。また、ヴェルヌ作品でも読んでみたい。翻訳されたらいいな~と熱い思いを抱いています。

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