記事一覧

ポール・デルヴォーの絵の中の物語

ミシェル・ビュトール『ポール・デルヴォーの絵の中の旅』が朝日出版から刊行されました(内山憲一訳、本体1300円)。ビュトールの連作『夢の物質』シリーズの一篇「ヴィーナスの夢」を訳したものです。デルヴォーの複数の絵から発想し、その絵の中に登場する『地底旅行』のリーデンブロック教授を「主人公」のひとりとして、『地底旅行』からの引用を多数交えながら、ヴェルヌ作品のパロディとして夢が構築されるという作品です。この作品はすでに同じ出版社から既訳があり、この『文学と夜』は造本としても大変美しい大判の本ですが、雑誌初出ヴァージョンの翻訳だったのに対し、今回の新訳は単行本『夢の物質』に入った増補版の方の翻訳ですので、『文学と夜』をお持ちの方でも資料として入手されておいて損はないでしょう。もちろん、ヴェルヌ・ファンとしても、ヴェルヌを素材にした作品はそれほどありませんから、ぜひお読みいただきたいと思います。まだきちんと目を通していないので訳文についてはなにもいえませんが、一点残念だったのは、「ザカリウス」が「ゼカリア」になっていること。なにか意図があったのであれば訳注をつけるべきですし、単に訳者がヴェルヌに詳しくなかったのだとしても既訳にはきちんと注もついていますから、残念です(ちなみに、内山氏の訳した単行本ヴァージョンでビュトールはZachariusではなく、Zacharieと表記しており、雑誌ヴァージョンではどうなっていたか不明)。

コメント一覧