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Lulu

オンデマンド形式の出版やe-bookの販売をしているLuluに注目すべきヴェルヌの翻訳そのほかが幾つか出ており、少し前から気になってはいました。特にロン・ミラーという人が精力的にヴェルヌ翻訳を出しているので、僕個人の翻訳作業の参考にもなるかと思って取り寄せてみました。届いたばかりなのでまだ拾い読みした段階ですが、少しご紹介します。

まず注釈つきロビュール。『世界の支配者』も入っています。手塚伸一訳『征服者ロビュール』、榊原晃三訳『世界の支配者』はともに信用のおけない杜撰な翻訳で、到底研究・評論には使えませんので、フランス語は読めないが、英語がある程度読めるという方はこちらを手元に置いておいた方がいいでしょう。『征服者ロビュール』の場合、特に飛行機関係の固有名の調査が厄介で、僕もかなり同定しましたが、不明の人名がまだまだ残っています。実は、ミラー氏の訳でも僕がわからなかった人名の多くには注が付いていません。これはミラー氏も僕もチャヌートという人が十九世紀末に出した飛行機の歴史に関する本を主要な情報源にしているせいで、これに漏れている人名は特定できていないという次第。ただ、特定された人たちについては、それぞれが考案した飛行機の図版もちゃんとすべて入っていますし、簡潔な解説もついているので便利です。

http://www.lulu.com/product/paperback/the-annotated-robur/16129046?productTrackingContext=product_view/more_by_author/right/2

ロン・ミラーがどういう人なのか、今回初めて知ったのですが、SF系のイラストレーター兼ライターのようです。ディズニー・ランドのヴェルヌ関係のアドヴァイザーもしているとwikipediaにはありましたが、専門研究者ではありません。したがって、草稿も見ていませんし、ヴェルヌの情報源も特定していません。

ロン・ミラー氏のサイト
http://www.black-cat-studios.com/

同じく、ロン・ミラー氏訳のガン・クラブ三部作(ただし、『地軸変更計画』については、十九世紀の英訳を手直ししたもの)。

http://www.lulu.com/product/paperback/the-gun-club-trilogy/1237503?productTrackingContext=product_view/recently_viewed/left/4

これはざっと見た限りではそれほど精度の高い翻訳という感じがしませんでした。

そして、〈驚異の旅〉ガイド。全頁地図と図版です。図版は主に機械関係。ほぼすべてミラー氏自身の手になるものですが、これまたそれほど精度が高いとはいえません。しかし、〈驚異の旅〉全作品の地図が網羅されていますので、便利なことは便利な気がします。

http://www.lulu.com/product/paperback/extraordinary-voyages/415429?productTrackingContext=search_results/search_shelf/center/4

最後にフランスで注目すべきDVDが販売されていますのでご紹介。60年代から70年代にかけてフランスで制作されたヴェルヌ原作のテレビ映画。『黒いインド』『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』『ザカリウス師』の三本を収録。特に『黒いインド』は評判がいいので楽しみです。

http://www.amazon.fr/Coffret-Jules-Verne-Wilhelm-Zacharius/dp/B005XQ90BG/ref=sr_1_sc_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1328335325&sr=1-1-spell

二年間の休暇

 年間予約購読している(岩波書店)「図書」1月号から、近刊書情報のなかに「二年間の休暇」上下(私市保彦 訳)2月16日刊行とありました。

  確か以前、記憶違いでなければ、掲示板上で(光文社古典新訳文庫)で刊行予定と紹介されていたようですね。なかなか刊行される様子がないので気になっていました。どうやら、(岩波少年文庫)から刊行されるらしい。となると、同文庫から出ている「海底二万里」上下(私市保彦 訳)と肩を並べることになる。

 同じ作品でもそれぞれの翻訳で楽しめる。シャーロック・ホームズもそうですけど、日本ならではの贅沢なひとときですね。さっそく、購入予定にいれています。

 それから、お尋ねしたいことがあります。刊行予定となっている「蒸気で動く家」「月世界旅行2部作」など、どちらが先になりそうですか?気になってやきもきしています。

kindle

いつの間にやらキンドルで読めるヴェルヌ全集がフランスで出ていました。「驚異の旅」全巻に加え、『二十世紀のパリ』や戯曲版『ミシェル・ストロゴフ』、詩集が入っています。また、たぶんエッツェル版の粗悪なコピー本だと思いますが、この夏に大量にヴェルヌ作品が出版されています。

新雑誌

Jules Verne et Cieという雑誌がフランスで新しく創刊されました。ヴェルヌ研究家として知られるダニエル・コンペール氏が中心となって最近できたClub Jules Verne(大衆小説友の会の構成団体、http://www.fictionbis.com/clubverne/gestion/index.php)の機関誌です。特集はアジア。ヴェルヌおよび同時代の大衆小説家によるアジア像を取り上げています。僕も文字通りの拙文を寄せています。実はこの特集は本来はアミアンのヴェルヌ国際センターの雑誌Revue Jules Verneに載るはずだったのですが、同センターの内紛を受けてこういう形での刊行になりました。

早稲田文学4号に石川義正氏による「中原昌也の「熱気球」」という文章が掲載されており、ヴェルヌ『気球に乗って五週間』と「空中の悲劇」にも論及されています。僕はこの両作については十九世紀のほかの作家たちによる気球小説の比較する論文を書いたことがあるので、正直言及していただきたかったところですが、実は、個人的に早稲田文学の3号では奥泉光論で、2号ではビュトール論でヴェルヌについて論じさせていただいているので、この雑誌では三号続けてヴェルヌが登場していることになります。だからどうだということもありませんが、文芸誌でヴェルヌの名前を見ること自体が珍しいので、これはこれでちょっとした出来事かもしれません。

スクリュー島

9月29日付朝日新聞の論壇時評の末尾に、高橋源一郎氏が以下のように書いたとのこと。

原発事故を科学技術の歴史の中に位置づけてみせた山本義隆は、『海底二万里』のヴェルヌが、別の近未来小説の中で、科学技術の粋を集めた人工島が人間関係のもつれによって崩壊することを描いたことに触れ、「科学技術が自然を越えられないばかりか、社会を破局に導く可能性のあることを、そしてそれが昔から変わらぬ人間社会の愚かしさによってもたらされることを、はじめて予言した」と書いている(〈5〉)。どれほど科学技術が進歩しようと、それを扱う人間の愚かしさは今も昔も変わらない。そして、そのことにだけは、人は気づかないのである。

〈5〉『福島の原発事故をめぐって』(みすず書房)

山本義隆氏がヴェルヌに触れていたことは小耳にはさんでいましたが、こうして朝日新聞に取り上げられたことで『スクリュー島』(邦題は『動く人工島』)に少し脚光が当たるようですとうれしいですね。この邦訳は完訳ではなく、技法的にも興味がある作品ですので、初完訳を出すべきなのですが、関心のある出版社の方はぜひ研究会までご連絡ください。というのは半ば冗談半ば本気というやつですが、この作品はヴェルヌには珍しい近未来小説で、しかも全編現在形で書かれています。一度きちんと読み直さなければと思いつつ、なかなか機会が得られずにいるのですが、正直、SF的側面だけがいたずらに評価されているものの、作品としてはあまりすぐれたものではないという印象を持っており、その点も検証しないといけないのですが……。

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