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読書会の準備2 ある会員の活動11

国会図書館へ行ってきた。

私市先生の『ネモ船長と青ひげ』や、M・グリーン『ロビンソン・クルーソー物語』(岩尾龍太郎訳)の「神秘の島」を論じた部分で言及されている、ピエール・マシュレー『文学生産の理論』の邦訳を確認しにいったのだ。

ピエール・マシュレーと言う人を詳しく知っているわけではないが、アルチュセール『資本論を読む』の共著者であり、最近『文学生産の哲学』という本が訳されている。マルクス主義理論の人らしいが、『文学生産の理論』には長文の『神秘の島』論が収録されているというので、ぜひ読みたいと思ったのだ。

もっとも、最初から半信半疑で行ったのである。翻訳があるならもっと早く分かっているはずだし(synaさんのJules Verne Pageにも紹介がない)、国会図書館のホームページで検索すると196ページしかない。抄訳に違いない、と踏んでいたのだが、借り受けてみればやはり総論編の第一部のみを訳したもので、『神秘の島』論は訳されていなかった。

しかし、訳された部分にもいくらか『神秘の島』へ言及があるのと、部分的には興味深い指摘も多かったので、できるだけ複写することにした。

ご存じの方も多いと思うが、国会図書館は借り出しはできない。著作権法の範囲内で複写を有料で請け負ってくれる。90ページほど複写してもらった。

帰りがけに区立図書館へ行き、上記M・グリーンと岩尾氏『ロビンソンの砦』、高橋大輔という人の本を二冊借りる。グリーンと岩尾氏の2冊は前にも読んだのだが借り直し、高橋氏はロビンソンのモデルであるセルカークの足跡を追い続けている人である。岩尾氏がセルカークは4年で野生化したと書いていたので、確認したかったのだ。

確かに、セルカークは見つかった時には言葉がほとんど話せず、裸足で山羊を追いかけて素手で捕まえていたと言う。4年でそうなのだから、12年タボル島にいたエアトンが野獣化していたのは故なきことでもないようだ。

司会からメールされてきた読書会のテーマについて自分の考えを簡単にまとめ、個人的な疑問、気付いた点をまとめておく。英訳版のブッチャーの解説を辞書を引き引き読んでみたが、やはり疑問が残った。

読書会のテーマについてここに書いてもいいのだが、もしや『神秘の島』を最後まで読んでない人がいたらどうしようかと思ってやめておく。皆さん読みましょう。

河出文庫から出た新訳『ロビンソン・クルーソー』にもざっと目を通す。若い読者のために意識的に選択したと解説に書かれている「ぼく」という一人称にどうしてもなじめない。70歳近くなった人物の回想記という設定なのだから、いくらなんでもその歳で永遠の少年キャラではないのでは? と思う。

そもそも、若い読者のために「ぼく」にしなければいけないなら、漱石の猫だって「ぼく」にしなければならない。

まあ、でもそれは私がもう「若い読者」ではないということなのだろう。

石橋さんがメーリングリストで触れていたのだが、解説は充実している。関連地図など資料もついていて、読んだことがないならまずこの河出文庫版がお勧めであることは間違いない。

この間も、ディケンズ『大いなる遺産』の新訳で楽しませてもらったし、河出文庫の古典新訳は続けてほしいものだ。

そんなこんなで既訳をじっくり読み直す時間がなくなってしまった。はたしてどうなることやら。

読書会の準備  ある会員の活動10

あっという間に9月である。

月に1回は投稿しようと思っているのだが、8月はとんでしまった。

本業が割に忙しかったこともあるのだが、実はまたしても不遜な思いにとりつかれてひそかな活動を続けていたのである(いや、別にたいしたことではないですが)。

今回は、特集への投稿と自由投稿を両方、それもどちらもしっかり書く、という目標を立てた。

前号は、特集用が22ページと長かった。自由投稿は6ページと短かったが、致命的なミスを犯し悔いが残った。

今回はどちらも15ページ以内に収められないか、と考えている。

もちろん、むりやり何でもいいから投稿するということではなくて、書きたいことができたから書くのだが、よりコンパクトに、ぜい肉をそいだ投稿にしたい。もちろん、前回のようなミスは許されない。

そんなわけで、8月の休日は汗をふきふき原稿を書いていた。最初は特集用から始めたのだが、読書会の連絡が来て方針を変えた。

すでにホームページで告知されているが、今回は最初に石橋会長が『神秘の島』の読みどころや成立の背景を解説するという。これを聞いてから書いた方がいいに決まっている。

そこで、自由投稿を先に書いてしまおうと途中から切り替えたのだが、残念ながらまだ仕上がらない。

そうしているうちに、9月になってしまったわけだ。

ここでまた舵を切り直し、読書会の準備のため『神秘の島』に戻らなければならない(当たり前だが、自由投稿は『神秘の島』がテーマではない)。

最初に準備した資料を整理し直す。

1.まず、邦訳三種。大友徳明訳(偕成社文庫)、手塚伸一訳(集英社文庫)、清水正和訳(福音館)。清水訳は持ち運びできない。なぜ福音館文庫におちないのだ。

2.原書。リーブル・ド・ポッシュの赤版。もちろん読めない。邦訳で疑問に思った部分の原文を確認するため。

3.英訳。シドニー・クラヴィッツ訳、序文・注記ウィリアム・ブッチャー。もう少しちゃんと読むつもりだったが上記のような事情で時間がない。

4.ロラン・バルト『新=批評的エッセー』。かの「どこから始めるべきか?」を収録。

5.“ROLAN BARTHES Œuvres complètes Ⅳ”。上記の原文を収録。読めないって言ってるのに。

6.私市先生の『ネモ船長と青ひげ』。必読の三部作論「ヴェルヌと永劫の旅人たち」を収録。

実はもうひとつ確認したい資料があるのだが、まだ入手していない。

驚くべきことに、2.3.はAmazon日本版で購入できてしまった。(ヴェルヌ書店を通しましょう)。5.は最寄りの大型書店に並んでいた。あそこのバルト全集をあらかた買ったのは私です。

何の苦労もなくこれだけ資料が集まり、なかなか恵まれた状況であった。

4.5.はともかく、1.2.3.6.をこれからの限られた時間のなかで読み直していく(2.3.は眺め直す)ことになる。

うーむ。ほんとはせっかく買った「総天然色ウルトラQ」も観たいのだが。

(この総天然色版については幕田さんも執筆の「Pen」を読みましょう)

ある会員の活動 9

今日は久々に涼しくて眠くてたまらない。

睡眠時間はある程度確保しないともたない体質なので、女子サッカーもすべて録画で観ていたのだが、決勝は朝起きたらまだやっていた。

沢の同点ゴール、PK戦。いや、よかった。

その後、また録画で観る。なにやってんだか。

そんなことはどうでもよくて、7月3日(日)に会誌5号の品評会があった。

場所は江東区の砂町文化センター。

確か、ここでのイベントがヴェルヌ研結成のきっかけとなったとか。

いうなれば発祥の地か(違ってたら誰かフォローしてください)。

砂町銀座という大きな商店街を通って行く。日曜日なのに八百屋や肉屋をやっている。いつ休むのか?

早めに文化センターに着く。1階が図書館で、ちょっと覗くと、集英社文庫『アドリア海の復讐』(マチアス・サンドルフ)などちゃんと置いてあった。

13時から品評会。参加は7名。会長の司会で、次回特集の内容や読書会いつやるか、などの協議をおりおりにはさみつつ進行。

内容についても活発に議論があった。

特に倉方健作氏の「追いすがる船影 ――ランボーと『海底二万里』をめぐる「伝説」に抗して」は、同人誌ではもったいないレベルという高評価の声があがった。

ランボーの詩「酔いしれた船」には『海底二万里』の影響があるという定説に根拠がないことを緻密な検証で示し、現時点では決定的ともいえる見解を示した必読の論文である。

それにしても、根拠のない(乏しい?)都市伝説めいた定説というのもあるのだなあ。

品評会終了後、私市先生の持参されたカナダのTVドキュメンタリーのDVDを鑑賞。深海探査の歴史を追ったもので、バチスカーフから現代の海底地図作成まで、変遷が分かる内容であった。こうした探検を始めた人たちには、やはりヴェルヌ作品への思い入れがあるそうで、影響力の強さを感じた。

さらにその後、砂町銀座の一角で一杯やったのであった。

さて会誌6号の特集は『神秘の島』である。どんな投稿が出てくるか。

お詫びと訂正  ある会員の活動8

来週7月3日(日)は会誌5号の品評会が行われる(はずです)が、読み返していて重大な誤りに気付きましたので、この場を借りてお詫びして訂正いたします。

今回私は2本掲載していますが、このうち自由投稿の方で大間違いをしております。

ブルース・チャトウィン『パタゴニア』とヴェルヌ『グラント船長の子供たち』を比べる内容で、チャトウィンは自由にパタゴニアをうろうろしているのに対し、『グラント』の主人公たちは行方不明の人物を探すため、手掛かりをもとに特定の緯度線を直進することに触れています。

この緯度を、私はうっかり「南緯三八度」と書いている(150ページ)のですが、もちろん正しくは南緯37度です。

これは、「してはいけない誤り」です。

なにしろ『グラント』全編を貫く謎の根幹、作品のアイディアそのものというべき緯度数なのです。これを間違えるということは、ちゃんと読んでいないも同然と言えるでしょう。

深くお詫びし、訂正いたします。

すでに会誌を購入された方々、会員の皆様、申し訳ありませんでした。

編集に力を尽くされたスタッフの皆さんにも、せっかくの会誌にこのような瑕瑾を残してしまったことをお詫びいたします。

こうしてひとつ見つけると、他にも思い違いなどがいくつもあるのではないかと思って戦慄します。

浅学非才の身、間違いをゼロにすることは確約できませんが、今後は上記のような基本的なミスはすることのないよう、努力いたします。

ある会員の活動 その7

5月19日(水)NHKBSプレミアムで放送された「世界ふれあい街歩き」で、ヴェルヌの故郷ナントをとりあげていた。

海外のある街を1日かけてぶらりと一周する、というコンセプトの紀行番組である。目の高さにハイヴィジョンカメラを据えて徒歩移動する(コンサート中継用のぶれない機材で、腰で支えているらしい。撮影には何日かかけているようだ)ため、視聴者は実際に街を散歩している気分になる。

自宅と会社以外にほとんど移動しない私はこの番組が割と好きでよく見ている。ホームページの予告にはヴェルヌのことも書かれていたのだが、あまり期待しないで観た。

案の状、「ナントの男は夢想家で、女は働き者」などという、本当かどうかわかりもしないテーマのだしにされていたし、ヴェルヌ博物館がちらりと出てきたのはよかったが、どちらかといえばパフォーマンス集団「ラ・マシン」を紹介する枕になっていたし、その際映っていた挿絵には『80日間世界一周』というテロップが付いていたが、どう見ても『征服者ロビュール』のアルバトロス号だった。

せめてラ・マシンの巨大な象のギニョールを紹介する時、『蒸気で動く家』の挿絵を隅に入れてほしかったが、高望みというものか。

私市先生が紹介しているヴェルヌのエッセイ「青少年時代の思い出」によると、ヴェルヌ一家はナント市内で10歳のころ別荘を手に入れている。(最初、「引っ越しをしている」と書いたが、筆者の読み違いであった。コメントを参照)。シャントネという、市の中心部から若干離れた丘の上のようだが、そこまではルートに入らなかった。

そんなわけで、会員としてはほぼ何の収穫もなかったが、「ヴェルヌが生まれたのはこの川岸だ」と住民が語っていた河畔の風景は見ることができた(この住民の発言も相当アバウトであった。コメント参照)。当時とは違っているだろうけれど。

もともとそんな番組ではないのである。だから期待しなかったのだ。

この番組の面白さは、わざわざ人のいない路地に入りこんでいくような流浪の感覚にある。クロアチアだったか、路地を抜けると集合住宅の中庭で、午後の日差しの中で風に植え込みが揺れている。誰もいない、そんな様子をしばらく映していた。

いったこともない街で、一人ぼんやりしているような、NHK総合でも金曜日の22時という時間に放映している、考えてみれば変な番組なのだ。

それでも、ナントの風景などNHKでしか放送しないだろう。後半生の居住地アミアンはまだやっていないようなので、ぜひ今後とりあげてほしい。

NHKでは他にも、以前「世界イチバン紀行」という番組でトリスタン・ダ・クーニャ島をとりあげていた。『グラント船長の子供たち』で主人公たちが途中立ち寄る島であるが、今でも他の陸地からの距離が世界で最も遠い島だそうだ。まだ一度しか録画を見ていないが、『グラント』の記述と比較しながら見直すこともしなければならない。

さて、会誌第5号はついに完成。昨日郵送されてきた。前にも書いたが、こうして本になると感慨深い。編集作業は相変わらず熾烈を極めたようで、寄稿するだけの者としてはひたすら感謝。表紙も『海底二万里』特集にふさわしい迫力に仕上がっている。

自分の文章は今読むといろいろ反省があるが、また次回につなげていきたい。

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