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ヴェルヌと関係ない話

この十日ほど結構きつい日々が続いておりました。その最大の要因はハードな原稿の執筆。河出書房新社の「道の手帖」というシリーズから、没後二十五年を記念して深沢七郎が出ることになり、いくつかの作品の解題を依頼されたのですが、いや、深沢七郎は大好きな作家とはいえ、十年くらい前に手に負えないと思ってずっと読んでいなかったものですから、寝耳に水でびっくりしました(どうやらその頃の知人が覚えていて推薦してくれたらしい)。しかも『楢山節考』と『風流夢譚』というハードさで、加えて、僕には全然なじみのないプレスリー賛歌の『東京のプリンスたち』。なにを書けばいいんだ、という感じでした。解題といわれたので、てっきりよくあるような、そこだけ小さい活字で三段組みになっていて、辞書式に代表作の解題が並ぶコーナーだと思ったので、できるだけ書誌情報やら背景やら先行する評論やらを紹介した上で、頑張って新しい論点を出そうと、書庫から持ち出した著作集を積んでとっかえひっかえしていたわけです。昨日、ゲラが出てみたら、「深沢七郎の作品世界」という総タイトル付とはいえ、独立した論考扱いで、こういう書き方で本当によかったんだろうか……と。しかもなんという堅苦しい文章。河出の近刊案内にもようやく出ていて、主な執筆者の顔ぶれが判明しましたが、たぶん顔を出すだろうなと思っていた、最近どこに行っても目にする気がするあの作家とかがやはり含まれていて少々げんなり。しかもtwitterを見ると、どうやら僕と同じ欄のほかの作品を頼まれた人(画家らしい)が代筆者を募集してその場で取引が成立している……。なんだかんだで話題満載な(?)一冊になりそうですので、ご注目ください。来月22日発売予定です。

春休み以来、仕事関係以外の本があまり読めないのですが、わずかな例外が川崎彰彦。いや、小沢信男、山田稔ときたらいずれはこの人を読まないわけにはいかないのですが、やはりいいのですよ、この作家。『冬晴れ』という短編集に収録の「ガラスのかかと」は多くの方にお勧めしたい一篇です。青山一丁目の流水書房になんとコーナーがあります(ここの本屋のある一列は趣味全開のセレクションで一見の価値あり)。たぶん最後の一冊だった俳句集は僕が買ってしまいましたが、『冬晴れ』そのほかはまだあるはず。このへんの作家が入手できるのは京都の三月書房とここくらいでしょう。