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会員の皆さんの最近のご活躍

当会顧問の私市保彦先生が責任編集した「バルザック芸術/狂気小説選集」がこのほど、私市先生が訳された『絶対の探求』を収録した第四巻をもってめでたく完結しました。「バルザック幻想・怪奇小説選集」に続く長丁場のお仕事でしたので、さぞかしほっとしておられるのではないでしょうか。個人的には、今回の第四巻の(大変読み応えがある)解説の中で「カニアール=ラトゥール」が人工ダイヤの製造に成功した人物として引き合いに出されているのが目を引きました。この人、『征服者ロビュール』の第六章にちらっと出てくるのですが(もちろん「空気より重い」派として)、この前後、誤訳だらけです。この小説も新訳をそろそろ出すべき時期が来ているのかも……

また、当会会員の中村健太郎さんが編集者として獅子奮迅なさった国書刊行会のバンド・デシネ(=フレンチコミック)コレクション全三巻が年明けでとりあえず(?)完結。第一巻の『イビクス』には、当会特別会員の小野耕世先生も帯文を寄せておられます。このシリーズ、なぜかテーマ的に心ひかれるセレクションで、第一巻の『イビクス』はアレクセイ・トルストイというだけで嬉しくなり(全然読んでいないのだが)、ロシア革命の混乱をひたすら逃げる話も嬉しく、そして、第二巻『ひとりぼっち』は、50年間辞書だけを友に燈台に幽閉された男、なんて、まるでヴェルヌ風ヌーヴォ・ロマンみたい(これだけひとまず目を通しましたが、よかったです)。年明け待機の第三巻は、戦争の中の日常、ということで、大西巨人『神聖喜劇』と比較して読みたいなと思っているところです。

凹状の曲線

『地球から月へ』第6章にこんな一節があります。

月が、地球のまわりを公転するときに通る線については、ケンブリッジ天文台があらゆる国の無知な人たちにもわかるように、ていねいに教えてくれた。この線は円ではなくて楕円の凹曲線で、地球がその中心になっている。

鈴木力衛訳(集英社)

地球をめぐって公転する間に月が動いていく軌道については、これが凹状の曲線を描いていることを、どんな国の蒙昧漢にでも分かるようにケンブリッジ天文台が説明していた。円軌道ではなくて、ふたつの焦点のひとつを地球とする楕円軌道なのである。

高山宏訳(ちくま文庫)

月が地球の周りを楕円を描いて公転しているのは周知の事実ですが、その軌道が「凹(状の)曲線」とはどういうことでしょうか。例えば「凹多角形」と言った場合、これは「凸多角形」の対義語で、180度より大きい角をもつ多角形を意味します。同様にして「凹曲線」と言った場合、どこか凹んだ箇所のある、例えば瓢箪の輪郭のような曲線ということになりますが、楕円はもちろんそのような曲線ではありません。

原文を見てみましょう。

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