記事一覧

凹状の曲線

『地球から月へ』第6章にこんな一節があります。

月が、地球のまわりを公転するときに通る線については、ケンブリッジ天文台があらゆる国の無知な人たちにもわかるように、ていねいに教えてくれた。この線は円ではなくて楕円の凹曲線で、地球がその中心になっている。

鈴木力衛訳(集英社)

地球をめぐって公転する間に月が動いていく軌道については、これが凹状の曲線を描いていることを、どんな国の蒙昧漢にでも分かるようにケンブリッジ天文台が説明していた。円軌道ではなくて、ふたつの焦点のひとつを地球とする楕円軌道なのである。

高山宏訳(ちくま文庫)

月が地球の周りを楕円を描いて公転しているのは周知の事実ですが、その軌道が「凹(状の)曲線」とはどういうことでしょうか。例えば「凹多角形」と言った場合、これは「凸多角形」の対義語で、180度より大きい角をもつ多角形を意味します。同様にして「凹曲線」と言った場合、どこか凹んだ箇所のある、例えば瓢箪の輪郭のような曲線ということになりますが、楕円はもちろんそのような曲線ではありません。

原文を見てみましょう。

続きを読む

コメント一覧

ishibashi 2010年12月26日(日)12時10分 編集・削除

この小説、現在新訳を準備中ですが、手始めに私用に『月を回って』(kurouchiさんが製本作業中の本です)とセットで椎名さんに組んでいただき、自費で小冊子化した際に、この部分の誤訳をご指摘いただき、事なきを得ました。心強いです。

kurouchi 2010年12月26日(日)23時13分 編集・削除

ネットでリトレとやらがひけるようになったのはいつからでしょうか。1997年より前なのか後なのか等々、ちゃんと書けるようになるともっとよくなると思うよ。

shiina 2010年12月26日(日)23時34分 編集・削除

ネットで引けるようになったのは最近でしょうね。大学図書館等には現物があるでしょうし、復刻版も出ていると思いますが。

kurouchi 2010年12月27日(月)00時43分 編集・削除

胸をはってそうおっしゃるのでしたら、最初からそう書けばよかったのにと痛切に思います。そのような姿勢が欠けていることが問題であるということが、お分かりになりませんか。

ishibashi 2010年12月27日(月)01時02分 編集・削除

うーん、まあ確かにネット以前の翻訳について訳者を責めるのは酷な場合もありますが、リトレはあまりにも有名な辞書で、十九世紀の翻訳をする時に参照するのは当然なんですよ。ただ、僕も含め、しばしば怠ってしまうわけです。それにshiinaさんは誤訳を指摘しているだけで非難はしていないと思いますが。

kurouchi 2010年12月27日(月)01時30分 編集・削除

誤訳の指摘は大いにやるべきでしょう。私自身もとても期待しています。ただ、以前からずっと期待していた者であるからこそ、継続できるようにして欲しいと思っているわけです。このような場で掲載していくつもりであれば、筆者が自分自身にも厳しい姿を積極的に晒していくようでなければならないと強く思います。しかしながら、ishibashiさんの返答はそのことを知っていて「僕も含め」と言っているにも関わらず私を大変失望させるものでした。この手の議論では身内に甘い態度を晒すのは自分自身に甘いよりも遥かにみっともないです。shiinaさんも色々な努力をしてきたからこその成果ですから、そのことに事細かくふれてもいいのではないでしょうか。