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目引き・かがり

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お久しぶりです。今回は二週分の授業をまとめてアップします。ディスクカッターで前小口も切り落として、本文の大きさが決まりました。余白のバランスを先生の指示通り多めに取った結果、B6より一回り大きな本になりました。もともとB6判の本として印刷製本に出す前提で組版されたデータを流用しているので、三方の余白を広く取るとノド側の余白の狭さや文字の詰まり具合が気になります。DTPの未綴じからルリユールするというのが何ぶん初めての体験なので色々と上手くいかない部分も出てくるわけですが。

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これは目引きが済んだところ。本かがりでは綴じ糸だけでなくフィセル(背綴じ紐)を使うので、紐が収まるようにV字型の溝をつけています。しかしながら、いろいろな作業の為に動かしているうちにまた背の部分が少しふくらんできてしまいました。(そのせいでちょっと目引きがしづらかった)

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四週間に渡ってオイルに浸けておいた牛骨へらはこのようになりました。固くてつるつるで、先っぽの薄いところはほんのすこし透き通って見えます。

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ようやくかがり台の登場です。日本製のシンプルなかがり台はみんな上級生の方々が使用中だったので、私はこのヨーロッパ製の旧式タイプを使うことになりました。アンティークな雰囲気がス・テ・キ♥……と言いたいところですが、稼働率が低いらしくネジ状のパーツの滑りがすっかり悪くなっており、なんと、組み立てるだけで15分以上もかかってしまいました。ギャフン。お陰で8折目までしかかがれませんでした。

昔は製本家になれるのは男性だけで、工房の中で女性の仕事といえばかがりだけだったそうです。これはアニー・トレメル・ウィルコックス著『古書修復の愉しみ』にちらりと書いてあったことで、私にはそれ以上詳しいことは分からないのですが、デニス・ディドロ編纂の『百科全書』における製本工房の挿絵からも確かにその様子を伺い知ることができます。
日本語で読める数少ない西洋式工芸製本の指南書としてジュゼップ・カンブラス著『西洋製本図鑑』という本がありますが、その中で「何冊もの本を連続でかがる際には一冊ごとにいちいちフィセルを切らず、一冊かがり終わったらその上に次の本を重ねてかがっていって後からフィセルを切るべし」などというような感じのことが書かれていて、最初に読んだ時にかなりビックリしました。その上、更なるスピードアップを図る場合の合理的なテクニックとして「二丁抜き綴じ」なんてものまで載っており、詳しい説明は割愛しますけれど、この糸かがりという仕事にはどことなく手製本が趣味や芸術ではなく《産業》であった時代の名残がつきまとっている感じが拭えなくて、なんとも言えず感慨深い気持ちになりますね(いや、私だけかもしれませんが)。かつてフランスには「かがり台が嫁入り道具」だった時代が存在したなどとも言われているようですが、一体それはどの程度の階級の女性たちの話なのでしょうか。