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フランス流SF入門

と、いうのを帰りがけに見つけて買い、電車の中で読んでみた。

訳者は早川のSF評論賞で特別賞をとった人。帯で荒巻義雄が推薦している。

フランス発のSF本だし、日本のSF評論シーンももっと活発になってほしい。

巻末には『ジュール・ヴェルヌの世紀』や新島氏訳の文庫クセジュ『SF文学』も紹介されている。

ぜひほめたいのだけど、どうも気になるところが多くて頭痛がしてきてしまった。

一番かわいそうなのはル=グウィンであろうか。本文では『ゲド戦記』しか紹介されてないし、日本で追加したらしい巻末の作家紹介では紹介がない。
『闇の左手』ぐらい紹介してあげればいいのに。

レムの扱いもいいとは言えない。『ツィベリアーダ』と『ソラリス』にちょっと触れただけだし。巻末の紹介も・・・『宇宙飛行士たち』って『金星応答なし』のことね。『天の声』とか『完全な真空』とか紹介してほしかった。「入門」編じゃないのかも知れないけど。

で、ヴェルヌに関連したところで言うと。まあ、もちろん一番最初にヴェルヌは「SFの父」としてとりあげられていて、脈絡というか話の前後がいったりきたりしすぎでよくわからんのだが、エッツェルの指揮の下、と書いてはあるけれども、叢書《世にも不思議な旅》をヴェルヌに任せたそうな。雑誌のことは触れられず。

さらに違和感が増すのは「私見を交え」た訳者の解説。「その小説の一部は最初に、フランス教育連盟の創立者であるジャン・マセが刊行した雑誌『教育と休み時間の雑誌 子どもと青少年の百科事典』に掲載された。このことは、SFが児童に対する科学教育と密接に関係していることを示している。」

まあ、確かにジャン・マセは共同編集者でしたか。教育連盟は『教育と娯楽』刊行より後ですね。雑誌の正式名称はこれであってるのかは分からない。

なんかすべてが微妙に間違ってるような・・・

巻末のエッツェルの紹介に、「1843年に子ども向け雑誌を刊行」とあるのは63年の誤植かなあ。
(これはあながち間違いではないとのこと。コメント参照)

まあ、いささか説明が粗雑・不足気味で、全体的にはちょっと残念な本。耳慣れないヨーロッパのSF作家やバンド・デシネ作家たちが紹介されているのが貴重と言えば貴重か。

うーん、心から、ぜひ推薦したかったのだが、上の2冊と、私市先生の『名編集者エッツェルと巨匠たち』はちゃんと読んでねと訳者の方に言いたいのであった。

コメント一覧

sansin 2012年06月21日(木)21時18分 編集・削除

あ、いま気づいた。バラードもディックも巻末紹介がないってことは、マイナーな作家しか紹介してないのか。
じゃあなんでレムが入ってるのだ。それならそれでまた不愉快。

ishibashi 2012年06月21日(木)23時04分 編集・削除

1843年には『新子供雑誌』を創刊しているので間違いではないですが、誤解を招く表現ではありますね。それにこの「雑誌」、見た感じではあまり雑誌ぽくなかった気が。サンドとか、ノディエとか、たしかデュマも書いていたかな、名だたる作家たちが書いた童話が集まっていたと思います。結構ちゃんとした「本」の印象でした。古本市で一度手にして買わなかったんですが、多少高くても買っておくんだったと今でもちょっと後悔しています。

ishibashi 2012年06月21日(木)23時10分 編集・削除

それよりなにより来月後藤明生の未刊遺作が遂に出るんですよ! 楽しみでなりません。

http://genkishobo.exblog.jp/16104501/

sansin 2012年06月22日(金)00時22分 編集・削除

ああっ! 

もはや海燕を全部コピーするしかないかと思っていた・・・

しかし、著作権者にご事情でもあるのか(深沢七郎はそうだったみたいですね)、全集とはいわずとも文庫でもっと出てほしいですねえ。『しんとく問答』とか。

それはそうと、私市先生の本では「新子ども宝庫」という訳名になっていたシリーズのことでしょうか。新作児童文学全集のような印象で読んでいましたが、「赤い鳥」のような雑誌と思えばいいのですか。

いずれにせよ、本文の説明が粗雑な分、解説はきちんと補完してほしかったです。ヴェルヌ研にお問い合わせいただければ。お答えするのは私じゃありませんが(笑)。

ishibashi 2012年06月22日(金)01時53分 編集・削除

ええ、それです。Nouveau magasin des enfantsだったと思います、原タイトルは。エッツェルの挿絵本の場合、分冊で出ますから、単行本と雑誌の境目が曖昧なんですよね。『教育と娯楽』ははっきり雑誌であるのに比べれば、雑誌ぽさは薄かったような気がします。

後藤明生、単に売れないからではないかと。だからこそ全集を待望しているのですが……

ishibashi 2012年06月22日(金)18時26分 編集・削除

同じく未刊つながりですが、こちらは未発表の作品ということで、大西巨人が六十年以上前に書いた長編評論「寓話風=牧歌的様式の秘密」が月末に出る雑誌「メタポゾン」に掲載されます。長いので今号と次号に分けて掲載。恥ずかしながら紹介を書かせていただいています。『二十五時』という、いまや誰も読まない(玉木正之を除く)小説を徹底的に批判した評論です。大西さんの文章は批判の時に冴え渡るのですが、加えて若い時の作品なので、「読み込み」の集中度たるや、驚異的です。近く出る単行本にも収録予定ですが、充実した雑誌なので、大きな書店で見かけられたら手に取ってみてください。

kurouchi 2012年06月25日(月)00時31分 編集・削除

http://item.rakuten.co.jp/kamikazestyle/new-04/
偶然発見。ネタとしてもつまらんなこれは。