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幻の島々

Jules Verne Pageの掲示板以来の読者の方々は、インターネットサイト「幻想諸島航海記」に親しんでおられると思うので、これまた今更ではありますが、近野不二男『北極奇談 幻島の謎』や、前述サイトの管理人である長谷川亮一氏による『地図から消えた島々』を取り寄せて繙読していたところ、前者でヴェルヌの『毛皮の国』がなぜか『コケの国』として紹介されており、後者に次の記述を発見。

「なお1801年10月、スペインのガレオン船エル・レイ・カルロス号のクレスポ船長は、北緯32度46分・東経170度10分の地点(犬吠崎の東方約2700キロ)で島を“目撃”した、と報告した。全くの偶然なのだが、このころの海図には、この近くにリカ・デ・プラタ島が描かれていた。そのため、この島はリカ・デ・プラタ島そのものと見なされ、「クレスポ島」という別名が与えられることになった。ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』には、潜水艦ノーチラス号がこの島に立ち寄る場面がある」

この「リカ・デ・プラタ島」とは、「銀に富む」という意味で、「黄金に富む」という意味の「ロカ・デ・プラタ島」とセットになった群島で、日本の遥か東方にあって、金銀を豊かに産し、「色白で豊かな住民が住む」といわれた、十六世紀後半以来の伝説の島です。『海底二万里』にもほぼ同様の記述がありますが、ほぼデュモン・デュルヴィルの『世界周航記』の引用です。それが元々は海図に書かれていた想像上の島(そして、当然ながら存在しない島)だったとは。

コメント一覧

MAKUTA 2012年05月07日(月)09時43分 編集・削除

>前者でヴェルヌの『毛皮の国』がなぜか『コケの国』として紹介

ああ、そういうことでしたか! 『毛皮の国』か!
怪しげな超常現象ファンとして、『北極奇談 幻島の謎』は、もちろん読んでいたんですが(笑)、『コケの国』の記述はずっと謎で、こっちのほうが「幻」じゃん!と思っていました。

長年の謎が一つ溶けました。ありがとうございます。
でも、まだ『毛皮の国』読んでないんですがね。

ishibashi 2012年05月07日(月)22時29分 編集・削除

『コケの国』に悩んでおられる方がこんな身近にいたとは。それにしてもどこからこんな珍妙なタイトルが出てきたのか。英訳にでもあったんですかねえ。毛皮猟師の話なんですよ。shiinaさんが最も読みたがっていた未訳作品の一つです。僕はこの作品、落ちだけで価値があると思っていますが、小説としては失敗作かな、と。傑作になり損ねたと惜しまれることのある作品です。

kurakata 2012年05月09日(水)00時03分 編集・削除

『コケの国』…誤訳タイトルの愛好家として非常に気になる事例ですので少し調べてみたのですが、おそらく近野不二男氏は、他の業績から察するに、ロシア語ができる方なのではないでしょうか。他の言語にはそういう例はあまり見られないようですが、ロシア語の毛皮が「MEX」、コケが「MOX」と類似しているのが原因、という案を提示してみたいと思います。たぶんそうじゃないかなー。

ishibashi 2012年05月09日(水)18時45分 編集・削除

たぶんそうなんでしょうね。とはいえ、オーブルチェフの『サンニコフ島』のあらすじはまるまる翻案の『北極の秘島』に拠っていたりするので、若干の疑問は残るのですが……関係ありませんが、オーブルチェフの『プルトニア』だけは読まねばと仏訳を入手したら、モスクワで発行されたものでした。ソ連の宣伝活動の一環でしょうか。

MAKUTA 2012年05月12日(土)12時30分 編集・削除

>ロシア語の毛皮が「MEX」、コケが「MOX」と類似しているのが原因

ああ、そういうことですかぁ。
べんきょうになるなあ。