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犬の洞窟

前の投稿からずいぶん間が空いてしまいました。その間に合評会が終わり、そろそろ会誌の次号のことを考えなければならなくなりつつあります。久しぶりということでリハビリを兼ねて小ネタなど。

ある仕事(ヴェルヌ関係)に一区切りがついて軽い虚脱感に襲われ、そういう時に合いそうだなという予感で、山田稔訳のロジェ・グルニエをまとめ読みしました。案の定ぴったりで、とりわけ『六月の長い一日』「フラゴナールの婚約者」あたりが気に入ったのですが、「隣室の男」という短編を読んでいたら、「犬の洞窟」が出てきてはっとしました。『月を回って』『ベガンの五億フラン』に登場するので、当ブログ読者であれば、ご記憶にあるかもしれません。しかし、訳注を見てもっと驚きました。

「〈犬の洞窟〉はナポリ近くのアニャーノ湖畔にある。炭酸ガスがたまっているなかに犬を連れ込んで窒息させ、すぐに連れ出して生き返らせる見世物で有名」

なんという動物虐待、と今ならいわれること必定。しかし、さすがに今はやっていないでしょうねえ。犬の洞窟は検索にかけてもなかなかヒットしなかったのですが、アニャーノという地名が判明したことで、一件ヒットしました。

http://30932531.at.webry.info/201102/article_11.html

なるほど。しかし、現在はどうなのか。アニャーノは温泉で有名らしいので、どなたか行かれた方の報告がいずれ現れることを希望したいところです。

これはグルニエのほかの短編の訳注ですが、エドモン・アブーの小説『耳のちぎれた男』がおもしろそうでした。医者によってミイラ化されたナポレオン軍大佐が半世紀後に生き返る話だとか。アブーは今ではほぼ忘れられていますが、ヴェルヌと同じ年の生まれで、メリメの好敵手と目された作家です。グルニエは、読んでいてとにかくこういう細部がよくて、ぐっとくるんですね。

コメント一覧

kurakata 2011年07月28日(木)02時07分 編集・削除

フランスの古本屋で買って、そのまま放置していたエドモン・アブーの伝記を今年の初めになんとなく読んだのですが(Marcel Thiebaut, Edmond About, Gallimard, 1936)、それが抜群に面白かったのが記憶に残っています。

エコール・ノルマルで同期のテーヌやサルセーを凌ぐ秀才、そのうえ冗談好きで如才ないアブーの魅力的なアネクドートがふんだんに盛り込まれていました。当時のギリシャを赤裸々に描いた彼の著作が、いい意味で「古代」の呪縛を解いて、オッフェンバックなどのオペレッタの呼び水となったことの示唆なども、なるほどなー、と。

ミイラ軍人の小説もそうですが、ビュルレスクな第二帝政期を最も体現して、ほとんどその終焉とともに活動を終えた作家といった印象でした。彼とすれ違いというか入れ違いのようになったヴェルヌの第三共和制的な側面とも絡めて、いくつか作品を読んで考えてみようと思います。

ishibashi 2011年07月28日(木)14時44分 編集・削除

なんと、僕が中途半端に関心をのばすようなことは、大抵なにかしら読んでおられるようで、うかうかしておれませんね。アブーはなぜか引っかかっているのです。いや、なぜかもなにも、彼のギリシャ本がヴェルヌのギリシャ小説Les Archipels en feuの元ネタだということがきっかけですが、小説の梗概を聞くとどうもちょっと一筋縄ではないかなそうだな、と。Le roi des montagnesというギリシャの山賊の小説がいま新刊書店で入手できる数少ない(唯一の?)アブーの本だと思いますが、これは出たときに買って、ドレの挿絵は楽しいし、出だしがいいので、途中まで読んだものの、放置していました(今、見たら、五分の一くらいまで読んだらしい)。しかし、経歴などは全然知りませんでしたので、お聞きしていよいよ興味を掻き立てられました。ありがとうございました。