ジュール・ヴェルヌと日本ジュール・ヴェルヌ研究会について

ジュール・ヴェルヌは1828年、フランスのナントで生まれました。幼い頃にこの故郷の港町で養った異国への憧れを原点としながら、やがてアメリカの作家エドガー・アラン・ポーの影響を受けて、科学と地理学の情報を取り入れたかつてない新しいスタイルの冒険小説を多数執筆するようになります――それが《驚異の旅》です。世界各地の様々な国々はもとより、地底や海底そして宇宙を舞台とした、長編と短編合わせて八十作品からなる連作です。1863年にシリーズ初の作品『気球に乗って五週間』を刊行するとたちまち好評を得て、世界中に熱狂的な読者を獲得することに成功。以降、1905年に77歳でその生涯を閉じるまでの間、ペンを持つ手を休めることは決してありませんでした。彼の作品が後年の文学や様々なメディアに与えた影響の大きさは計り知れず、その威光は死後100年以上過ぎた今でもまったく色あせていません。

ヴェルヌの作品は過去にその半数近くが日本語に訳されています。今では手に入りづらい作品も少なくありませんが、『地底旅行』『海底二万里』『八十日間世界一周』『月世界旅行』『二年間の休暇(十五少年漂流記)』などの名作ならば読んだことのある方も多いのではないでしょうか。ハリウッド映画やアニメーション作品、はたまたテーマパークのアトラクションといった形でその内容に触れたことのある方を含めれば、ヴェルヌの世界を知る日本人は相当な数にのぼるでしょう。

ところが、それほど親しまれてきた物語の作者であるにも関わらず、彼自身については日本ではあまり知られていません。日本語で読めるヴェルヌの伝記は未だ一冊も存在せず、過去の誤ったヴェルヌ像が今なお古い資料からあちこちへ孫引きされ続けているのが現実です。ヴェルヌを単体で取り上げた関連書は何冊か存在しますが、どちらかというと批評色の強いものが多く、あまり一般向けではありませんでした。

そんな中、2006年にヴェルヌ作品の普及や読者間の親交を目的として日本ジュール・ヴェルヌ研究会が結成されました。その会員によって、『ジュール・ヴェルヌの世紀 科学・冒険・《驚異の旅》』が上梓されたのがつい今年のことです(東洋書林 刊)。これはヴェルヌ没後100年を記念してフランスで刊行された“JULES VERNE De la science à l'imaginaire”を翻訳したもので、ヴェルヌの評伝及び彼の時代における科学や地理学の解説を中心として、巻末に様々なデータを収録しています。また、三百点余りの図版を掲載して親しみやすい作りになっているのが大きな特徴です。

今回のトークイベントでは本書を翻訳した新島進と石橋正孝
をパネリストとして、奥泉光氏に様々な質問をさせていただきます。

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