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『黒いインド』『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』映画版

2月4日の投稿で、フランスにて先ごろ発売されたヴェルヌ映画のDVDコレクションをご紹介しました。先日ようやく到着し、収録三作中、表題の二作(いずれも白黒)を観ました。一言でいうと、このDVDは買いです。ヴェルヌファンであればぜひ入手しておくべきだと思います。値段も20ユーロ弱で手頃ですし。『黒いインド』は前評判に違わず、極めて原作に忠実で、文学作品の映像化としては極めて高い完成度です(例の自動の梯子が再現されていないところだけちょっと残念でしたが。それから湖の底が抜けるシーンはありませんでした――これは技術的に無理だったでしょうからやむをえません)。廃坑も、地下のコールシティも雰囲気たっぷりです。フクロウだけ、フィルムに直接書き込んだ稚拙な影絵ですが、これもご愛嬌。『黒いインド』には個人的に愛着があるので、とてもうれしい贈り物という感じでした。

http://www.amazon.fr/Coffret-Jules-Verne-Wilhelm-Zacharius/dp/B005XQ90BG/ref=sr_1_sc_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1328335325&sr=1-1-spell

そして『ヴィルヘルム・シュトーリッツ』。この比較的知られていない作品(しかもいわゆるヴェルヌ的な作風とは違う作品)をよく映像化したな、と思いますが、これも拾いものです。時代的にもちろんヴェルヌ父のオリジナル版はまだ出ていないので(1967年作なので記憶違いでなければ、ミシェルによる改作の事実も知られていない)、当然ミシェル版が原作で、時代は18世紀。シュトリーツが怪しげな美青年で、オタクの先取り的イメージを見事に表現しています。映像の遠隔伝達技術も含め(これ、ミシェル版にありましたっけ?)、映画についての映画になっているところが原作の一解釈としても新鮮です。元気なヒロインの自己主張(彼女が最初にシュトリッツを誘惑したのであり、透明化されたことも喜ぶ)と最終的にそれが否定されるのを諦念とともに甘受するかのようなニュアンスの結末など、微妙な陰影もあります。改めてミシェル版およびジュール版を読み直して比較検討したくさせる力があると思いました。近くジュール版は翻訳もされますし、これは会として一度鑑賞会を設けたいところです。

そして最後に会員の皆さんのご活躍ということで近刊をご紹介。近兼拓史さんの『80時間世界一周』が来月扶桑社新書より刊行されます。

http://www.amazon.co.jp/80%E6%99%82%E9%96%93%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E5%91%A8-%E6%A0%BC%E5%AE%89%E8%88%AA%E7%A9%BA%E4%B9%97%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%8F%E3%82%8A%E6%82%B6%E7%B5%B6%E3%83%AB%E3%83%9D-%E6%89%B6%E6%A1%91%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E8%BF%91%E5%85%BC-%E6%8B%93%E5%8F%B2/dp/4594065589/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1330533610&sr=8-1

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ykom Eメール 2012年03月02日(金)17時26分 編集・削除

ジュールヴェルヌゆかりの日本人の事に関する記事というだけですが、お伝えしておきます。

http://hontokaminohozon.blog72.fc2.com/blog-entry-163.html

ishibashi 2012年03月04日(日)21時21分 編集・削除

ykomさま、貴重な情報をありがとうございます。関心を持つ会員の方もおられるかと思います。

映画DVD、残った『ザカリウス親方』を観ました。一時間ほどの短編映画。脚色にマルセル・ブリオンが参加しているということで期待されましたが、個人的な感想としてはいまいち、という感じでした。ザカリウス役に迫力がないし、脇役たちがその印象を強めるばかり、という感じ。あまり人間関係に緊張感が感じられないんですよね。ザカリウスは人造人間を作ろうとしていて、悪魔を思わせる人物(ピットナッチオの登場を期待していた者にはこの点でもがっくり)の助けでそれに成功するのですが……。この脚色もそれほど効果が上がっているようには見えませんでした。ロケ地に選ばれた町の雰囲気などは悪くないのですが、室内が安っぽすぎます。